学部長インタビュー

真壁学部長(以下M)、矢上祭実行委員(以下Y)


Y:早速ですが矢上祭について質問させていただきます。慶應義塾大学には現在5つの学園祭があり、それぞれにカラーが存在していますが、その中で矢上祭についてどのような印象をお持ちでしょうか?


M:最近は他キャンパスの学園祭に行く機会がありませんでしたが、私としては理工学系のマインドを計るいいチャンスだと思っています。マインドというのは年ごとに、また時代とともに変わります。三田キャンパス、信濃町キャンパス、湘南藤沢キャンパスそれぞれで違うと思います。そして、矢上キャンパスの ― 理工学系の ― マインドを創ってゆくのは若いみなさんです。


Y:なるほど。本年度の矢上祭のテーマは「無限大」 "infinity" ですが、これについてはいかがでしょう?


M:infinity、無限大という記号は理工学で主に使うものなので、一般の方には少し難しいかと思います。けれど、強い関心を引く言葉です。infinityを見て、壁に当たらない無限の広がり、つまり可能性を感じるとともに、境界のないことの不安も脳裏に浮かびました。


Y:もう一つ矢上祭について質問なのですが、矢上祭に対して何かご提案はありますか?した。


M:そうですね。今は矢上キャンパスの周りが住宅地です。でも理工学部が矢上に越してきた1972年当時、周りは田んぼで閑散としていました。すごい変化がここ35年間で起きています。

 今は当時からお住まいの人よりも、新しく建設されたマンションに住んでいる人の方が比率は大きい。いくら1972年からこの矢上の丘に理工学部があるといっても、実態をご存じない住民の方が多いと思います。しかも、入口は坂になっていて、守衛さんもいる。普段は入りにくいキャンパスです。

 こんな環境のなかで、学園祭を行うことによって地域の方に来ていただいて、「ああ、こういうようなことやっているんだ、こんなことがあるんだ」みたいなことを知っていただければいいかなと。地域の人との共生というのが一番大切じゃないかと思います。普段の矢上キャンパスはこの堅い感じのコンクリートの建物しか見えませんから、学園祭を行なうことで皆さんとの交流を通して理工学部と近隣地区の内面的な関わりがぐっと深まると期待しています。


Y:矢上祭をもっと地域との発展に貢献できたらなということですね。


M:ええ、理工学部が今現在ここに建っていられるのは周りの人の深い理解があるからです。


Y:ありがとうございます。では真壁学部長の学生時代についてお話を伺いたいと思います。

学生時代に一番頑張ったこと、またそれに打ち込もうと思ったきっかけを教えてください。


M:私が学生だった頃に、コンピュータのメインフレームが出てきました。銀行のセンターにあるような大きいコンピュータですね。当時受けた講義がきっかけで確率的な現象(Stochastic process)に関心を持ち、自然をモデル化しようと思ったのが学生時代の思い出の一つですね。モデル化したものをコンピュータで処理し、像(イメージ)がでてくる。そのようなことに興味を持ったことが、私が現在の分野(プラズマプロセス)にいるきっかけだと思います。


Y:ありがとうございます。学生時代に何か感銘を受けたことはありますか。


M:いろいろな本を読んで、感銘や疑問を覚えたことがあります。世界の文明の発祥地、そういう場所は我々が現在歴史で習うとき、全て荒廃、あるいは砂漠化したところがおおい。

 私はあれに疑問を持ったんですよ。たまたま大学生の時、中央公論から出版された世界の歴史という本を読み納得しました。文明というのはエネルギーを使い果たすと消え失せる、という事実です。

 これは今の地球環境に対する警告としての、歴史的な事例ですね。当時の文明のエネルギー源といったら木ですね。日本のような温暖多湿な気候の下では木を切っても植林すれば20年くらいで生え変わりますが、たとえばギリシャのような風土では一度木を切ってしまったら生えて成長するのに相当長い時間を要するわけです。そこで、エネルギー源たる木材が無くなれば、その土地には住めなくなる、というようなことです。


Y:ありがとうございます。学生時代の経験が今の人生に活かされていると思う瞬間はありますか。


M:ちょっと答えは異なる方向かと思いますが、人との出会いが僕の人生の中では大きい比重を占めていますね。月並みな表現だけど、今まで出会った人から受けた感銘があるからこそ今の私があるのだと。

 その中でも大きいのは外科の手術をしてくれた先生、もう一人は研究室のスーパーバイザーです。生きていくことの意味を含めて色々なことを教わりました。大学院生のときから海外の学会に参加する機会ももらい私の世界が広がりました。今の私の何割かはこの二人の先生によるところが大きいですね。あの二人の先生と出会っていなかったら現在の私はなかったと思います。

 ただ、出会いを求めることはなかなか難しいことです。会ってみないとわかりませんしね。要は全て前向きに人生を進んでいくってことだと思いますよ。


Y:ありがとうございます。続きまして学生へのメッセージとして、今の学生に伝えたいことはありますか。


M:今の学生さんを含めて伝えたいことがあるんですよ。これも自分で感じてきたことなんだけど、人類の歴史は考古学が発達したためにどんどん遡っていますね。去年の9月私がドイツで博士課程の学生に講義していたとき、エチオピアで330万年前の幼児の頭蓋骨が発見された記事が新聞に載りました。人類の歴史っていうのはすごく古くて、どんどん過去に遡るわけですね。だけど、今を生きている我々は、今ある科学技術がここ200年ぐらいの期間でつくられたと思うじゃないですか。そんなことはなくて科学技術は行きつ戻りつしている。平均するとこの技術進歩の傾き(gradient)は人類の歴史からみると大変小さいものです。

 こういう悠々とした時間の流れを通して遺伝子を伝え生きている人類は、日常の生き方として、「思い詰めない」ということが重要だと言いたいのです。自然体で若い時代を送ってほしい。飛躍しますが、科学技術に関する研究についてもちょっぴりの傾きがあるような研究であっても、すごい研究となる可能性が高いということです。このちょっぴりしたことができる人は、自分で考えることができる人。これを忘れないでほしい。

 自分で考えることはすごく大変なことで、だからちょっぴり考えればいいんだと。それが独創性につながります。ガクンと急勾配でできちゃうのは天才。私は、未開拓の分野を切り開くっていうのは才能+運だと思っています。そういった風にメッセージを送りたいと思いますね。

 それから、今、我々の周りには情報が溢れているじゃないですか。その中で情報を取捨選択する技を身につけることが重要ですね。それによって、「個」が生まれるんです。個と個がそれぞれ取捨選択した情報でお互いに助け合うことができるわけ。これが人間の社会です。ぜひ、自分の「個」をつくって欲しいと思いますね。


Y:ありがとうございます。では学部長就任にあたりまして、就任してのお気持ちを教えてください。


M:大変ですよ。(笑) みなさんは経済のグローバル化という言葉をテレビや新聞でよく見かけますよね?経済は日本だけでなく、世界と連動しています。そういう時代になってきて日本一国だけでは経済活動をやっていけない。その経済と同じように、教育もグローバル化が進行しているんですよ。もう日本の大学同士で競争・比較しあう時代ではないんです。欧米の優れた大学と協調連携し、あるいは競争していく時代に入っています。教育グローバル化の真っ只中をみなさんと生きていけて嬉しいです。


Y:ありがとうございます。では、これからの理工学部の理想像を教えてください。


M:教育のグローバル化ですね。21世紀のいま異なった文化が融合すると、新しい科学、技術が生まれる可能性がでてくる。特に、言葉が異なると教育の仕方も考え方も異なる場合があります。そういった異文化を尊重し、異文化の融合を大切にする。文化の異なる国の学生が、自然と混在したようなキャンパス環境を矢上につくり、そういう中でまた異なる学問を融合させる。そういう仕組みを持った理工学部にしたいと思っています。このために学生の皆さんは基礎基盤の学問をしっかりと身につけてほしい。融合するときには自分のスキルとスタンスが物を言いますから。


Y:はい。頑張ります(笑) 最後に、何か一つ私達にご意見などがあればお願いします。


M:皆さんは友達との付き合いの幅がせまくなっている気がします。矢上祭を通して異なる学科の人と知り合い他学科を知ることが出来ます。私は30年前矢上に校舎が移転してきたとき、病院のようなところにきたなと思いました。研究室は安全・安心を確保するためにこれも仕方ないという面もあります。この環境の中で、ドアを開いてお互いが交流に努めないと異文化の融合は難しいですね。残念ながらそういう交流はだんだん減ってきているんですよ。将来、幅の広い人生を送るために、皆さんは矢上祭を通じて多くの人と友達になって交流の幅を広げるchanceにしてほしいと期待しています。


Y:ありがとうございました。